マンガにディレクターは必要か?
私の仕事の1つにマンガ製作というものがあります。
これは、面白いストーリーマンガを世に送り出すという仕事ではなく、
企業のプロモーションのためのマンガを製作しています。
・難しい仕事内容を分かりやすく説明
・誤解が多い業務内容を正しく伝える
・会社が何故その仕事をしているのか、の共感を得る
・そのシゴトの大義について描き、感情を動かす
などなどがご発注頂く企業様の目的の多くです。
そして今マンガ製作を始めて4年経っていますが、
まだまだご理解いただき難いんだな、
と思うのが『編集(ディレクション)』の重要さです。
『絵が描ける人がいれば、マンガって自社でも作れますよね?』
と言われる度に、残念な気持ちになります。
絵が描ける人がいればマンガは作れます。
しかし、上記に書いた『目的が果たせるマンガ』を作れるかは別です。
特に、感情を動かそうと思ったら余程の才能が無い限り、
経験が無いと難しいと思います。
漫画家さんの経験値や才能がある場合で、
ディレクション不要な程完璧に製作して、コミュニケーションも完璧、
な事もありますが、そんな貴重な事は滅多に起こりません。
マンガのコマ割りと感情の関係
ここに1つの例を挙げてみます。
私が以前から介護職向けのマンガを連載させてもらっている、
某病院様のマンガです。許可を頂いていますが、
製作過程を固有名詞を隠した状態で掲載してご説明します!
このストーリーは、主人公のAちゃんが未経験で病院に勤めはじめ、
一人前になるまでを描いています。
ピックアップする話しは、
『Aちゃんがケアレスミスをしてしまい、分析レポートを書く、
と同時にAちゃんの試用期間終了が近づく』という内容です。
きちんと成長出来ていれば、正規雇用される、という間際のストーリーです。
当初のシナリオ、ラストの一部は以下です
B(リーダー)「反省するためではなくて、
これから起きるかもしれない事故を予防するためのレポートなの」
A「はい」「わかりました」(少し明るく)
ワーカー室のドアが半分開く
Cが覗き込む「リーダー、ステーションに内線入ってます」
ナースステーション
B「はい、Bです」
人事次長「明日、人事委員会があります。
16時に第二会議室にお越しください」
「Aさんの試用期間終了報告をお願いします」
初稿(ネーム)
これを、そのままマンガにした時の、最後の数コマがこの画像です。
シナリオ通りですが、
・Aちゃんへのジャッジがくだされようとしている
・でもそれをまだAちゃんは知らない
・この事は重要
・つづく、という印象
というのが分かりにくいです。
※ネーム…マンガの設計図の様なもの
2稿目(ネーム)
そのため、次に作ったのが2枚目です。
Aちゃんが頑張って仕事をしているシーンを背景に入れる事によって
・でもそれをまだAちゃんは知らない
が強調されます。
だけど私にはまだ『重要度』と『ドキドキ感』
という形容しにくい感情が出せてないと感じていて、
その後3枚目に変更します。
3稿目
Aちゃんが頑張って仕事をしているシーンを最後のコマにする事で、
この後続いていく、とうい事も含め強調出来ました。
そして、電話機のシーンからBリーダーの手を除く事によって、
『わざわざナースステーションに取り次いでいる』という印象を与える事も出来ました。
決定稿
そして最後、清書の段階でクライアント担当者様のミラクルショット(修正案)が飛びます。
『はい Bです』というセリフを
『はい・・・Bです』に修正したので、
Bさん(主人公、Aちゃんの上司です)の緊張も描くことが出来ました。
まとめ:ディレクターは必要!
と、いう、こういう1コマ1コマ、
1アクションや1セリフのやり取りを続ける事によって、
読み手に抱いて欲しい感情をリードしていくのです。
なので、誰でも作れると思うのはナンセンスです。
私がたまに一緒にお仕事させてもらっている漫画の企業様も
ネーム専任がいらっしゃるぐらいですので、大変重要なお仕事です。
この事が(完全に憶測です)影響しているのが、
私の大好きな本『毎日が冒険』著者:高橋歩の漫画化です。
過去にお勧め本一覧でも入れています
数年前に漫画化されることを物凄く喜んで、
当時のSNSにも紹介記事をシェアした記憶があるんですが、
恐らく見事に失敗した例だと思います。
もちろん私も購入し、ワクワクしながら読み進めたのですが、
本当にあれは酷かった。
あんな素晴らしい本を良くもここまで酷いマンガにしたもんだ、と思ったものです。
恐らく、プロが介入しないで製作したか、プロの指摘を誰も聞かなかったか、
のいずれかだと思いますが、この事(漫画化の大失敗)は
上巻が発売されてから3年半経ってるのに下巻が発売される形跡が全くない事からも、推測出来ます。
そんなわけで、マンガって簡単に作れないんだよ、という話しでした。
モイモイ!!