※この文章には作品のネタバレが含まれます。
ひさしぶりにレビューが書きたくなるぐらいに色々考えさせられる映画でした。
私にとってこの映画の評価はそれほど高くなく、5点満点で3.5点と思っているのですが、それにはそれなりに理由があると思っています。
だからといってこれは批判レビューではないのでご安心を(?)
なぜこの映画の評価が割れてしまうのか分かる部分が多く、もう1回観たら3.5とか言わないかもしれないと思っているんです。
全て正しいとは思わないけど、どこかの誰かのモヤモヤが成仏できればと思ってレビューを書こうと思いました。
THE FIRST SLAM DUNK の基本情報
邦題 | THE FIRST SLAM DUNK |
公開/製作国 | 2022年12月3日/日本 |
上映時間/映画区分 | 124分/G |
監督 | 井上雄彦 |
脚本 | 井上雄彦 |
出演者 | 仲村宗悟 笠間淳 神尾晋一郎 木村昴 三宅健太 |
THE FIRST SLAM DUNK のあらすじ
湘北バスケットボール部員、宮城リョータを主軸とした過去の回想とともに、原作の中でも最後に描かれた湘北高校最大の挑戦である山王工業戦を描く。
THE FIRST SLAM DUNK の感想
まず、そもそも人の感情を動かすストーリーというのには必ず「導入部分」というのが必要です。
これを分かっていないとこのレビューの意味は分かってもらえないです。
例えば巨大生物が地球を襲い人類が滅びそうなのを命をかけて戦うヒーローがいたとして、いきなり巨大生物とヒーローが戦い始め、何回か負けそうになりながら相手にダメージを与え続けた結果最終的に自分の命と引き換えに巨大生物を倒し地球が救われたとします。
この自己犠牲的な部分で泣ける人もいると思いますが、もっと良くすることが出来るとしたら「導入部分」です。
ヒーローには家族がいました。
どんな時にでも自分の味方になってくれて悩んでいる時にはそっと側にいてくれる妻と、愛くるしい息子。
自分を信じてくれる父と母と、いつも一緒にいてくれるペット。
巨大生物の登場でヒーローとして戦う事を選んだ彼に家族は大反対をします。
それでも、地球を救うためだと理解してもらい、涙ながらに送り出してもらいます。
巨大生物を研究し情報をくれる信頼できる仲間がいて、一緒に戦う相棒もいましたが、相棒は訓練中にケガをして共に戦えなくなりました。
その仲間との諍いや絆も描きます。
そんなあらゆる人の気持ちを背負って、地球を守るために、家族を守るために、相棒の無念をはらすために、仲間の努力に報いるために、自分の命と引き換えに巨大生物を倒し、地球は救われました。
どう考えても後者の方が泣けます。
(書いてて気づいたけどこれ良く考えたら後者はアイアンマンの事言ってる気がする)
これが導入部分の力なのです。
さて、スラムダンクの話しに戻しましょう。
どのような経緯で山王戦を映画にする事になったのかは分かりませんし、2部作3部作にするアイデアがあったのか無かったのか、そもそも予算などの問題もありますから、希望だけで何とか出来る話しではないでしょう。
だけど、山王戦を描くことになった。
私たちスラムダンクファンがなぜあの山王戦をこれほどまでに評価し、感動し、何十年経っても語り継ぎ、若い世代に暑苦しく語り続けるのか?
それは、マンガ、SLAM DUNKの山王戦の導入部分は1巻から始まったスラムダンクストーリーの全てだからです。
花道がバスケを始めて短期間でシュートを身に着けた事も、流川と花道の関係も、みっちーがやさぐれて出戻った事も、ゴリが元の部員たちに煙たがられてた事も、メガネくんがそんなゴリの味方だった事も、赤点取ってみんなで勉強合宿した事すら全部山王戦で私たちが涙する事だけのためにあったと言っても過言ではなかった。
それを、2時間の映画では描けない。
時間が足りない。
だから導入部分として今回用意されたのがりょーちんのバックグラウンドなのです。
これは井上先生が、ストーリーで人の心を動かすには何が必要なのか本当によく分かってらっしゃるからやった事、とわたくしは勝手に受け取っています。
私たちが1巻から読み続けて積み上げたものを一旦置いておいて、別の導入を2時間で作り上げるというのは天晴です。しかも、元々のストーリーに影響が出ない内容。
つまり、マンガで私たちがもらったあの感動と同じ感動は、そもそも映画に求める事自体がナンセンスなわけです。
りょーちんの導入を先に全流しして、後から試合を通しで描いた方が良かったのか、今回のようにちょこちょこ回想が入った方が良いのかは好みもありそうですが、恐らく何度か検討して後者にしたのだと勝手に推察しています。
試合いの流れは重要部分はマンガのままでしたし、動きに拘ったと仰るだけにかなりバスケとしてアニメーションが成り立っていたと思いますが、その分予算の問題なのかモブの描き方やギャグの入れ方、そもそも試合いをフルで描けないという理由で単調になり得たかもしれないからです。
と、いうことで、私たちスラムダンクファンの中に導入に対する『想い』が
・マンガでの導入を重視する人
・この映画の導入を素直に受け取る人
と大きく分けて2種類現れてしまったのです。
スラムダンクを元からめちゃくちゃ好きだけどりょーちんの話しをそのまま素直に受けとる事が出来た人の中には、恐らく試合中のセリフや行動を頭の中にあるマンガでの導入で補填していた人も多いと思います。
そこまで井上先生は計算していたんじゃないかと思ってしまいます。
そういう意味で、マンガファンも今回の映画初見の人も置いていかない、今2時間で出来るこれ以上ないストーリーを作り上げた井上先生はやはり怪物だと思います。
私はマンガを100回以上読み(本気で盛ってない)、特に山王戦に関しては1ヶ月に1回ぐらいの間隔で読み返す人間なので、思い入れが強すぎて今回の導入を素直に受け入れられず、安西先生が『諦めたらそこで試合終了ですよ』というセリフを言うのを分かっていても「先生、言わないで、言わないでー!!!(セリフが軽くなるから)」と思ってしまっていたクチですが、帰宅後考えれば考えるほど、じゃあこの映画どうすれば良かったんだ?と思い始め、きっと今映画で観る事が出来る山王戦ではこれ以上は無いんじゃないかと思ったんです。
花道と流川のタッチも、2人の関係を知らない人が見たらただの仲間のタッチだし、花道の「俺には今なんだよ」というセリフすらもポカーン( ゚д゚)ですが、これの導入を多くの映画鑑賞者が説明しなくとも既に「知っている」と踏んで脚本書くなんて、スラムダンクというモンスターコンテンツでしか出来ない事だと感じました。
りょーちんのバックグラウンド自体が面白くなかったとかは思わなかったので、もう1回素直な気持ちで観て来ようとは思います。
それと、そもそもこんな状態で観たわたくしにとっても沢北の数分のシーン。
『僕に必要な経験をください』はめちゃくちゃ刺さったので、このシーンだけでも泣けます。
やっぱり井上雄彦はとんでもないクリエイターでした。